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ねえ、アゲハ。 庭に、花が咲いたよ。 君が、気に入るといいのだけれど。 出会いは偶然。とある公園、散歩の途中。真夜中の月明かりの下、舞うように踊る君を見つけた。 まるでそれは、君1人だけの舞台のようで。 さしずめ僕は、その1人だけの観客。 セットは、月のスポットライトのみ。 こんなにも美しい舞に、音楽すらないだなんて。 僕は、考えるまでもなく、歌を口にしていた。出来る限りの綺麗な声で、君の美しい舞を、壊してしまう事のないように。 願わくば、これが君の舞台での素晴らしい演出となりますように。 僕の歌に乗せて、君は舞う。 一瞬、君が僕を見た。そして、柔らかく笑む。 美しい踊り子さん、僕の演出は、お気に召して頂けましたか。 やがて、歌は終わりに近づいた。このままでは、君の舞も終わってしまう。 終わりなど、来なければいいのに。 この歌を終わらせるわけにはいかなかった。君の舞を続ける為に。 「随分と、長い歌なのね」 唐突に、君が呟いた。何十回と、同じフレーズを繰り返した後のことだ。笑ったままゆっくりと、舞を終盤に向かわせる。 慌てて僕は、歌を続けた。もうリピートは出来ない、歌の終わりと共に、舞は終わるのだ。何て、悲しい。 僕は、最後のフレーズを歌い切った。同時に君の舞も、最後のステップを踏む。 ただ、静けさが辺りを包んだ。僕は、拍手すら出来ずに、ただ君に魅入る。 君が、僕を見た。 「ありがとう」 一言、囁くように言う。 ああ、なんて、綺麗な声だろう。僕の歌声よりも、君の方がずっと良かったに決まってる。君が歌えば、良かったのに。 月明かりを頼りに、舞に夢中で見ていなかった、君自身を見る。 あれだけ舞った後なのに、その長い漆黒の髪に、乱れはなかった。辺りの闇に紛れる事なく、ただ月の下で美しく、そこに在る。 「素敵な歌だったわ」 くるり、と回るワンピース。闇に際立つ黄色は、僕の目を惹きつけた。微風に遊ばれ、裾が踊っているようだ。先の舞の、余韻が残る。 ゆっくりと、君は僕に近づいた。 「次も、歌ってくださる?」 真紅の唇が笑った。 急に君を、近くに感じる。手を伸ばせば触れられる距離、いやそれだけではなく。 近くに来て、やっとその瞳を見た。 深い蒼。愉しみを奥底まで沈ませた、紺碧。 「君は、蝶なのか」 落ちた言葉に、意味などない。ただ口を開けば、自然に言葉が出てきただけ。 その姿があまりにも、酷似したのだ。脆く舞う、夏の蝶のごとく。 馬鹿な問い。君は、嘲笑とも微笑とも取れぬ笑みを浮かべる。 「そうよ」 君の唇が、僕を掠めた。そう思ったのは、ただの気のせいかもしれない。 刹那、君は消え、僕が見たのは、闇に混ざる事ない漆黒と、それに際立つ黄色と、小さな深い蒼を持つ、蝶の姿だ。 「君か」 まるで君のごとく、舞い続ける蝶に、僕は近づく。そのたびに、君は離れていく。 どうして。 そして、気付いた。君に頼まれた、とても簡単な、そして、とても難しいこと。 僕は、歌わなければならない。出来る事なら、君の美しい舞を、引き立たせよう。 歌に導かれるように、舞いながら、君は僕に寄り添い、そして。 「おいで、アゲハ」 その蝶の名は、アゲハ蝶。 最大級の愛しさを込めて、僕は君を捕まえる。 06.05.24 ... World --333-- サークルに出そうと思ってたやつ。 >> Novel |